2014年8月アーカイブ

人間には3種類のタイプがあります.pngのサムネール画像


「人間には3種類のタイプがあります。それは・・・」というフレーズがよく使われる。

膨大なビジネス書を読んできたが、しばしば登場する。いわば常套句であり、ステレオタイプな思考でもある。そう言っておけば、とりあえず賢そうにみえる便利な言葉だ。

どこか村上春樹さん的な思考という印象を受ける。『ノルウェイの森』に登場する永沢さんが使いそうだ。実際に使っているかもしれない。

いや、たぶん使っているはずとおもいつつ、どうしてもおもい出せないのでネットで検索してみたところ、別の本だが、新潮文庫の『ペット・サウンズ』のあとがきで、村上春樹さんは次のように語っているそうだ。「世の中には二種類の人間がいる。『カラマーゾフの兄弟』を読破したことのある人と、読破したことない人だ。」と。やっぱり。

問題を3つに絞り込んで箇条書きにする方法は、確かマッキンゼーのコンサルが使っていた手法が一般に広がったと記憶している。確かに、だらだらと問題を列挙するよりも、簡潔に「3つあります」と絞り込んだ方がシンプルで、対策も取りやすくなる。デキるビジネスマンは、基本的にこの手法を使いこなして適切に問題を解決する。上司に対する報告も分かりやすい。

しかしながらビジネスのイシュー(課題)に対してはともかく、人間を「3つ」にカテゴライズするのはどんなものかな、と感じる。

といっても、尊敬する稲盛和夫さんも、「可燃性の人」「不燃性の人」「自然性の人」がいると述べている。ようするに自分からモチベーションを発揮して頑張れる自然性の人と、リーダーから与えられたらやる気が出る可燃性の人と、批判ばかりして動かない不燃性の人がいるということである。


4837923100働き方―「なぜ働くのか」「いかに働くのか」
稲盛和夫
三笠書房 2009-04-02

by G-Tools


ただ、留意しておきたいのは、稲盛和夫さん「3つのタイプがあります」と限定していないことだ。

というのは、可燃性の人間が、ある仕事の契機を経て成長して、みずから心に火を灯すような場合もあり得るだろう。批判ばかりで動かなかった人が自省して、生き方を変えることもある。人間は変わることができる。その寛容性が発想の原点に据えられている解釈している。

勝ち組と負け組、富裕層と貧困層、若者と老人、男性と女性、血液型、肌の色、国籍・・・などなど、人間はカテゴライズ(分類)することが好きだ。しかし、何かのフレームで物事を切り取るということは、切り取られた余分な部分を排除していることでもある。

「人間には3種類のタイプがあります」とカテゴライズしたとき、それぞれのタイプのフレームに当てはまらない属性は排除している。多様性を認めない考え方ともいえる。あるいは、タイプ分けした人間の傲慢さを感じてしまう。おまえは神か?と問いたくなる。そんなに簡単に人間はカテゴライズできるものじゃないだろ。

人間はとても複雑な生き物だ。人生は多様性に満ちている。

それをシンプルにカテゴライズすることは、複雑さを切り捨てている。仕事なら構わない。仕事の場合はシンプルに課題を整理したほうが効率的であり、生産性もあがる。しかし、人間は複雑でいい。多様だからこそ味があるものであり、社会的には弱者であったとしても素晴らしい生きざまの人間もいる。

たとえば、「自分の職業はライターです」と言い切ってしまったとき、ライター以外の仕事はドメイン(主な領域)から外れて、自分の守備範囲ではなくなってしまう。つまり肩書きは自分の守備範囲を明確にするとともに「可能性を殺す」ものでもある。

「なんだか分からないものでありたい」と、自分は常に考えてきた。

趣味で音楽を創っているのだけれど、ジャズなのかポップスなのかエレクトロニカなのかわからないものを創りたかった。そして、「なんだこれは!いったいこれはどういうジャンルだ?!」というアートに出会うと嬉しくなる。

そもそも、iPhone は「Phone」とネーミングされているが電話だろうか。

確かに電話の機能はある。しかし、電話でありながらゲーム機でもあり、デジタルカメラでもある。あるいは辞書にもなるし、地図にもなる。iPhone は、いまや究極の「なんだか分からないもの」だ。しかし、その多様性が多くの利用者を惹き付けてやまない。

多くのビジネスモデルでも同様のことが考えられる。スターバックスがただの「喫茶店」であったなら、これほど店舗を増やすことはできなかっただろう。心地よい空間を提供する、というある意味、抽象的な付加価値の提供に撤したからこそ事業を拡大した。

ushirosugata.jpgあらたなビジネスは、既存の市場をベースにしながら「?」という驚きのある組み合わせやコンセプトから生まれるものだと考えている。イノベーションを行うためには、がちがちにカテゴライズされて硬直した思考では難しい。柔軟な思考が求められる。

だからぼくは「人間には3つのタイプがあります」という言説を拒むことにしている。

カテゴライズによって思考に硬直したフレームを形成し、「偏見」で他人や現象を見切りたくない。「あなたにそういう側面があるなんて考えもしなかったよ、びっくりした!」という意外性を見出して生きていきたい。

なぜなら、意外性に満ちた人生は楽しいからだ。

人生はきれいにカテゴライズされて整理されたものよりも、なんだか分からない、とっちらかった雑然としたものの方がいい。というのは、ぼくの部屋が雑然としているからかもしれないけれど(苦笑)

ちょっとだけ片付けも必要ですね。部屋のなかも人生も。

(外岡 浩)

BOOKS

以下のムックおよび書籍で原稿を書かせていただきました。

4800249368天皇家の食卓と日用品 (TJMOOK ふくろうBOOKS)
宝島社 2015-12-04

by G-Tools

4800246660月とこよみの本
林 完次
宝島社 2015-09-18

by G-Tools


詩の電子書籍です。

B00CPQ6MM2天秤座の彼女 (ポエムピース電詩文庫)
マツザキヨシユキ 外岡浩
株式会社ソーセキ・トゥエンティワン 2013-05-08

by G-Tools

B00CXACOIG小峰に纏わりつくネコ (ポエムピース電詩文庫)
マツザキヨシユキ 外岡浩
株式会社ソーセキ・トゥエンティワン 2013-05-20

by G-Tools

DTMアーカイブス



自作曲弾き語り

ネバー・エンディング・ストーリー(THE NEVER ENDING STORY Cover)